何にせよ、僕らが学びを始めるとき、本から知識を集め始める。物理の本なら、たかだか数百ページだろうか。けれども、そこに載っている内容は、人類が何千年も世代を超えて、汗を流して、集積し洗練してきた「ストーリー」なのである。アルキメデス、ガリレオガリレイ、ニュートン、アインシュタイン、パウリ・・・著名な学者の発想が世界を変えてきたが、彼らの研究もまた幾千もの人たちの交流と研究の上に立っている。科学、物理学というものは学問であると同時に、壮大な人間の歴史であり、芸術でもあるように思える。 けれども、残念なことに、人類の傑作であるはずの物理学は、それが現代の豊かさに直結しているとしても、多くの人にとってつまらないストーリーだ。僕もそう感じていた一人だから分かる。大学生時代、物理への好奇心はあっても、学ぶことへの努力を続けられることはなかなかなかった。分からないからだ。「分からない」→「つまらない」となってしまう。ダメダメ大学生だったなぁと今は思う。 そんな僕でも、大学院を卒業し、今は研究者として物理を生業にしている。「分からない」「つまらない」だった物理は、いつの間にか24時間寝るときも考えるような(いや、せいぜい8時間くらいか・・・)対象になってしまっている。今度は、家事・子育てを疎かにするダメダメ父親になっているのは言うまでもない。 さて、本題に入ろう。原子核の研究の始まりをチャドウィックの中性子発見に始まると考えれば、この分野はおよそ80年の歴史がある。にもかかわらず、何十年も置き去りになっている問題が数多く残っている魅力的な学問だ。とはいえ、素粒子物理、物性物理などと比べると、自然界の階層的にその間に存在しているためか、原子核分野の注目度は相対的に低い。今これを読んでいる人も、原子核物理を知らない人かもしれない。このウェブサイトの目的は、(1)多くの人に原子核の世界に興味を持ってもらうため、(2)共に原子核物理の難題に取り組む仲間を増やすため、(3)自分の物理学の理解を深めるため、(4)教育の材料のために作ることにした。 原子核物理は、構成物質100~102の有限多体問題であるため、高度な理論モデルでも確実な解を求めることが極めて難しい。そこで、簡単な例を最初にとりあげ、そこから最先端の研究との関連性を示し、実問題への応用に展開するように作っていきたいと思っている。 このウェブサイトは、僕が暇を見つけて少しずつ内容を増やしていくつもりでいる。でも少なくてもこれから記載する第1章では、初等量子力学を用いて、原子核物理のイメージをつかめるようにしていきたいと思う。第2章以降は、それからだ。 2018.02.28
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