1.1 古典力学~重力ポテンシャル~

量子力学へ行く前に、ちょっとした復習である。
なぜ、地球は太陽の周りをまわるのか・・・。なぜ月は地球の周りをまわるのか・・・。それは重力があるからである!、と息巻いてみても、現代社会のそれなりの人は知っているだろう。けれども、ニュートンが現れるまで、多くの人は地球と太陽の間に見えない力が働いていることなど考えず、神の御業とだけ思っていただろう(もちろん例外的に先進的な発想を持った人間もいただろう)。当時は既に数多くの観測と解析が行われ、ニュートンが重力を見出す素地はすでに出来ていた。恐らくリンゴが落ちるのを見ただけで重力という発想に行き着いたのではなく、様々な客観的事実と当時の自然科学の知見が深く関わっていただろう。人類の工学的、数学的技術の進歩に支えられていたことは言うまでもない。つまりニュートン以前の人たちの小さな積み重ねの結晶が、ニュートンにパズルの最後のピースをはめせたのである。

さて、では高校物理に戻って、太陽と地球の2体系を考えてみよう。太陽を原点と考えて地球の運動方程式は、 \begin{equation} F=ma=-G\frac{mM}{r^2} \label{eq:eom} \end{equation} である。重力定数\(G>0 \)とすると、太陽と地球の間には引力が働いている。けれども太陽と地球が46億年もくっつかずにいるのは、遠心力が働いているからである。 \begin{equation} F=mr\omega^2=m\frac{v^2}{r} \label{eq:centrifugal} \end{equation} この二つの力が釣り合っているので、地球は太陽の周りを公転し続ける。
一方で、古典的ハミルトニアンは \begin{equation} H=\frac{p^2}{2m}-G\frac{mM}{r}=E \label{eq:hamiltonian} \end{equation} となる。第1項は運動エネルギー \(p=mv \)、第2項は重力エネルギーである。エネルギー \(E \) は一定である。もし地球と太陽の質量と重力定数が分かっていれば、\eqref{eq:eom}, \eqref{eq:centrifugal}, \eqref{eq:hamiltonian}(式)から地球の公転速度 \(v \) と、地球と太陽の距離 \(r \) が分かる。これは、これから解く量子力学の問題と似ている。ある方程式を解いて、粒子の位置とエネルギーを調べるのだ。ただし、量子力学の世界では粒子と波の二重性が存在する。太陽と地球のように、ある1個の粒子の存在する場所とエネルギーには「幅」が存在し、確率的である(波の一番高いところが一番粒子があるところ、波の低いところは粒子が少ないところ、ということである)。