1.2 1次元シュレーディンガー方程式

よし!それでは、量子力学の世界に入ってみよう。でもいきなり現実の系(原子、原子核)を考えるのは大変だ。まずは1次元から考えよう。1次元なら角運動量を考えなくてよい。現実の系の計算で、兎にも角にも複雑になるのは、角運動量があるからだ。さらに核子(や電子)の内部自由度のスピン、アイソスピンとか、実際にはより多くの自由度を考えなくちゃいけない。ちなみに自由度っていうのは、まぁ3次元空間で言えばx方向やy方向、z 方向の事だ。ある粒子を記述するのに必要な最低限の次元数を自由度と呼ぶのだ。スピンもアイソスピンもない1次元にある粒子の位置は \( r \) 一つだけで決めることができるだろう。量子力学を学ぶなら、これより簡単な例はないはず。でも1次元をなめちゃいけない。物性物理では1次元の系も実在する。それに、1次元でも実際の原子核をモデル化し、記述可能な場合が多々ある。また1次元で得られる知見は、3次元や高次元でも通じる知識がたくさんある。

では1次元のシュレーディンガー方程式を考えてみよう。 \begin{equation} i\frac{\partial}{\partial t}\psi(r,t)=H\psi(r,t)=E\psi(r,t) \label{eq:schrodinger} \end{equation} こんな式が量子力学の教科書に載っているはずだ。シュレーディンガー方程式は、波動方程式の類であり、解 \(\psi(r,t) \) は波に準じた形の関数になる。量子力学の直感的理解を難しくさせている「粒子と波の二重性」があるが、実際に解く問題は波なのである。変な気分もするが、これでもちゃんと粒子としての性質にも通じるのである。忘れなければ、後で詳しい説明をつけたい。
\eqref{eq:schrodinger}式の段階で得られる物理的な情報は、「系のエネルギーが \(E \) である」ということと「波動関数が座標 \(r \) と時間 \(t \) に依存している」ということだけである。肝心な部分である系の情報(原子、原子核?それとも別の何か?)は主にハミルトニアン \(H \) に入っている。 \begin{equation} H=T+V \label{eq:hamiltonian} \end{equation} \eqref{eq:hamiltonian}式の第1項は運動エネルギー、第2項はポテンシャルだ。それらのことについては後で考えるとしよう。 さて、波動関数 \( \psi(r,t) \) は時間 \(t\) と空間 \(r\) の関数になっている。ここで、ハミルトニアンは時間に依らないと考えよう。つまり、ポテンシャルはいついかなる時も変化しないということだ。そして、波動関数を時間成分と空間成分に分けて考えてみよう。つまり、 \begin{equation} \psi(r,t)=\phi(r)\varphi(t) \label{eq:wf1} \end{equation} である。すると、\eqref{eq:schrodinger}式の最初と最後の等号の微分方程式だけは、いま解くことができる。 \begin{eqnarray} \left(i\frac{\partial}{\partial t}-E\right)\psi(r,t)=0 \end{eqnarray} これから、\eqref{eq:wf1}式と合わせて \begin{eqnarray} \left(i\frac{\partial}{\partial t}\varphi(t)-E\varphi(t)\right)\phi(r)=0 \end{eqnarray} 上式があらゆる座標 \(r \) で成り立つには、 \begin{equation} i\frac{\partial}{\partial t}\varphi(t)=E\varphi(t) \end{equation} この微分方程式の解は、 \begin{equation} \varphi(t)=e^{-iEt} \label{eq:phit} \end{equation} である。ちなみに積分定数は省いた。積分定数は、 \( \phi(r) \) の中にあると考えてもよいはずだからである。\eqref{eq:phit}式から分かることの一つは、振幅が時間に対して常に一定 \(|\varphi(t)|=|e^{-iEt}|=1\) であるということだ。つまり、いかなる時間 \( t \) においても、系の中にある粒子の数は変化しない。ちなみに変化しないということは、今考えている系の中に粒子の出入りが無いということではない。ここではまだ深く考える必要はないが、系に入る粒子と出ていく粒子の正味が0であってもよい。

さて次は、波動関数の空間成分を解こう。ここで、ポテンシャルの実際の形が必要になる。今考えている粒子は1個(分かりやすいように)で、下図のような空間を運動していると考えよう。

ポテンシャル

これを数学的に表すならば、 \[ V(r)= \begin{cases} &\infty \quad (r \le 0) \\ &-V \quad (0 < r \le a) \\ &0 \quad ( a < r ) \end{cases} \] 粒子1つが、上式に表されるポテンシャル内を運動するならば、1次元におけるハミルトニアンは以下のように書ける。 \begin{equation} H=\hat{T}+\hat{V}=\frac{\hat{p}^2}{2m}+V(r)=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+V(r) \label{eq:hamiltonian2} \end{equation} このポテンシャルの形、前節の重力ポテンシャルと大きく違うところが二つある。一つは、ポテンシャルの形状が \( 1/r \) 依存性ではなく、\( r=a \) までポテンシャルの深さが一定で、\( r>a \) ではゼロということだ。なぜこんな形のポテンシャルを考えたのか。パウリの排他律。 \( V(r \le r_{0})=\infty \) (\(r_{0}\) は粒子の大きさ)と考えればより現実的になるが、。 これから、\eqref{eq:schrodinger}式は、 \begin{equation} \begin{split} H\psi(r,t)&=\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+V(r)\right)\phi(r)\varphi(t)=E\phi(r)\varphi(t)\\ &\rightarrow\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+V(r)\right)\phi(r)=E\phi(r) \end{split} \label{eq:schrodinger2} \end{equation} となる。

シュレーディンガー方程式を解くうえで重要なことがある。それが波動関数に対する境界条件だ。境界条件と聞いて難しく考える人もいるかもしれない。でも冷静になって考えれば、決して難しいものではない。まずは、\( r\le0 \) の時を考えてみよう。この領域ではポテンシャルの高さが無限大だ。そんな領域には粒子の波は入りっこないし、粒子が見つかる可能性もない。よって \( \varphi(r=0)=0 \)という境界条件(1)が成立する。次は \( r=a \) だ。この領域で \( V(r) \)の深さが \( -V \) から \( 0 \) に変わるが、波動関数はなめらかに接続しているはずである。よって、\( \lim_{r\rightarrow-a} \varphi(r)=\lim_{r\rightarrow+a} \varphi(r) \) と考えることができる。これが境界条件(2)だ。次に、 \( r > a \) の領域で \( r \) がはるか遠方の時である。この時は、\( V(r)=0 \) である。そして波動関数は粒子のエネルギーが正か負かに応じて二つ考慮しなければならない。\( E\ge 0\) の時は、\eqref{eq:schrodinger2}から計算できるように、 \begin{equation} \varphi(r)=A\cos(kr)+B\sin(kr) \label{eq:region2a} \end{equation} となるだろう。ここで、\( A \) と \( B \) は境界条件から求められる定数である。また、 \begin{equation} k^2=\frac{2mE}{\hbar^2} \end{equation} とおいた。一方で、\( E< 0\) の時は、\eqref{eq:schrodinger2}から、 \begin{equation} \varphi(r)=A'\exp(kr)+B'\exp(-kr) \label{eq:region2b} \end{equation} である。 また、\( 0 < r < a \) の領域で\eqref{eq:schrodinger2}を解くと、 \begin{equation} \varphi(r)=\alpha \cos(Kr)+\beta \sin(Kr) \label{eq:region1} \end{equation} であり、\( A \) と \( B \) は境界条件から求められる定数である。また、 \begin{equation} K^2=\frac{2m(E-V)}{\hbar^2} \end{equation} とおいた。 ここまでをまとめると、 1.境界条件を調べる。 2.波動方程式を境界条件の領域に分けて解く。 3.得られた波動関数を境界条件の下で 4.規格化する